ChannelFireBallより。
しゃあないキープ、マジック難しい、もうマジックやめる等に関わるティルトの話。

身につまされる記事でした。


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Your Inner Monster
By Roberto Gonzales
8 Apr, 2013

http://www.channelfireball.com/home/your-inner-monster/

奴はいる。

鍵をかけて閉じ込めたと思ったとたん、奴は逃げ出す。逃げ出すばかりか、そこらじゅうを走り回りあちこちで大混乱を引き起こす。

奴の狙いは全てをめちゃくちゃに破壊することだけだ。心を持たず、主人もいない。それどころか、奴は私たちを従えている。

奴は何者か?

奴とは何なのか?

逆上だ。
ポーカーなど様々なゲームで、奴はティルトと呼ばれている。ティルトに支配された状態でゲームをプレイすべきではない。
ティルトは以下のように定義されるためだ:

「予期した(得る権利があると思っていた)結果に反する、極端に良い/悪い出来事により、目の前のタスクに集中できなくなること」

全ての人、本当にあらゆる人がどこかでティルトを経験したことがあるはずだ。
ポーカープレイヤーに対してはもう少し突っ込んだことが言える――事前に計算可能な確率があり、確率が高いはずの結果にならなかったとき、勝った側と負けた側の両プレイヤーがティルトに陥るリスクがある。そう、両プレイヤーが。

ティルトには2つの側面があり、これはほとんどの記事が(世の中のPhDたちでさえも)見逃している:正と負のティルトだ。
性格によってどちらのティルトになりやすいかが変わる。

数が多いのは負のティルトで、マジックでよくあるのはマリガンティルトだ。
あなたはゲーム3をプレイしているとしよう。シャッフルして、輝かしい7枚のカードを引く。見ると土地がない。この手札から始めて動けるデッキではない。

マリガンが必要だ。

あなたの経験が浅ければ、これがティルトのきっかけになり得る。ほとんどのマジックプレイヤーは7枚のカードでゲームを始める権利があると思っている。権利なしにティルトは生じ得ない。
いま6枚のカードを引き直し、今度は土地が1枚、そして手札にある他のカードはどれも土地と色が合わない。あなたのティルトメーターの針が上昇する。血が煮えたぎるのを感じ始めるかもしれない。突然、世界はカウチであなたはリック・ジェイムスとなる(※訳注:Kanye Westの曲『To The World』の歌詞 "The whole world is a couch, bitch I’m Rick James tonight" より)。
紙のマジックをプレイしている場合、あなたは頭を振り、これをキープしてチャンスに賭けるべきかどうか考え始める。それがほぼ敗北に繋がることを知りつつ。
このような思考を始めたら、あなたは2段階のうちの1段目に差し掛かっていることになる。「正当化」だ。

マリガンティルト時の正当化は、ほとんどのマジックプレイヤーがあっさり陥る大きな落とし穴だ。数えきれないほどのプレイヤーがこの状況になり、「しょうがない、キープしよう」と言う。
多くの場合、これは明らかに間違っている。マリガンして6枚になり、手札の土地で残りのカードをキャストできないなら、あなたは実質何枚のカードを持っていることになるだろう?1枚?それとも1と1/3枚?
もちろん、完璧な最高のドローをして必要な土地を手に入れる確率はゼロじゃない。でも通常それは起こらない。マリガンティルト時の正当化によって良い判断を下せなくなるのはマズイ。

ある夜、私はPaul Cheonの動画配信を見ていた。そこで彼は、マリガンティルトに打ち勝つさまをまざまざと見せつけてくれた。
ゲーム2、彼はダブマリせざるを得なくなった――土地がなかったからではなく、相手の人間リアニデッキへの干渉手段がなかったためだ。彼の7枚、6枚、そして5枚の手札はいずれも正当化すれば簡単にキープできる内容で、動画を見ている人の多くも「キープしろ」と言っていた。彼はプロらしく肩をすくめ、有効牌のある4枚のカードでキープ。結局彼はゲームに勝利した。
彼は7枚の手札で始める権利に惑わされて安易な決断をすることはなかった。

マリガンティルトの2段階目は「絶望」だ。ここにくると、両プレイヤーが同じ数の手札で始める公平なマジックのゲームをする、というあなたの期待は消え去る。起きていることには気を配らず、ただこの状況をどう終わらせるかを考えるようになる。イライラし、怒りがこみ上げ、災難に見舞われた悲しみに包まれる。対戦相手はときおりこのハプニングに気まずさを覚え、気乗りしないふうに「こういう勝ち方は嫌だね」と言う。MOでは、シャッフラーに対する思いつくかぎりの胸の悪くなるような罵詈雑言をプレイヤーがタイプするのがこの段階だ。大きなトーナメントでさえ、ここまでくると多くのプレイヤーが即投了してしまう(プレイテストではほぼ確実に投了だね)。失敗にがっかりし、負の感情がやる気をなくさせる。
ここに私がマジックキャリアの最初の頃に教わったレッスンがある:

「何が起きようと、致死ダメージを受けるかデッキからカードを引けなくなるまで敗北することはない」

絶望にとらわれると、あなたは最善を尽くすことをやめる。プレイ手順や現局面での勝率に集中しなくなる。良いゲームをしようとしなくなる。
7枚のカードと良い精神状態があればあなたの勝率は平均より高いとしても、例えばカードが5枚で心に暗雲立ち込めているとき、どれほどの勝率があるだろう?おそらくほとんどゼロだ。

より良いマジックプレイヤーになるためのイロハの一つは、盤面の自分側も相手側も100%コントロールするのは不可能だということだ。良いプレイヤーならあり得る動きを100%見通せるチェスとは違う。マジックはそのように作られてはいない。
ある時にはプロポーカープレイヤーのように、個々のゲームでの出来事と自分の感情を切り離さなければならない。そうすれば、結末に振り回されず、最も高確率なプレイは何かを考えて動けるようになる。

多くのプロが次のように言うのを聞くだろう:「このプレイをして、もし相手があれを持っていたら使ってくる。そうされた場合はどのみち負けるんだから、やろう。」
マジックのゲームの多くは、計算をして、確率の高いプレイをするプレイヤーが勝利する。常に成り立つわけではないけれど、それゆえに「確率の高い」プレイと呼ばれている。

誰にとってもティルトマネジメントは難しい。私もそうだ。
私はPTラヴニカへの回帰で0-3したドラフトデッキをゴミ箱に捨ててしまった。いくつかの強いカード、Deathrite ShamanとフォイルのBlood Cryptが入っていたにも関わらず。PTで3ラウンド立て続けにマナスクリューした怒りを抑えることができなかった。

怒りは人に馬鹿なことをさせる。
実は幸運も同じだ。

ティルトの残り半分は、正のティルトだ。私たちはティルトを負の感情とばかり結びつけるので、正のティルトについて考える人は少ない。
正のティルトは負のティルトと同じものだ。しかし、悪い出来事がまずいプレイを引き起こすのではなく、良い出来事が馬鹿なプレイを生む。私はこれを宝くじティルトと呼んでいる。

宝くじに当選することで人は地獄に落ちる。人生で何ペニー稼いだかを数えていたような男が突如2000万ドルを手に入れ、全てが吹き飛ぶ。宝くじに当たるような、バカバカしいほど良い出来事が起きることで彼は自分が何者であるかを忘れ、正しい思考ができなくなる。アメフトでは、(ウォーレン・サップ、ヴィンス・ヤング、トラヴィス・ヘンリーのように)大金を手にした選手がその使い方について正常な思考ができなくなる例をたくさん見ることができる。彼らはその幸運や財産は決して底をつかないと考えてしまう。

マジックでは、良い(ラッキーな)ときにまともでない手札をキープしてしまうのは宝くじティルトだ。GPピッツバーグのラウンド10で戦った相手は、RRとWWが必要なハンドをキープしたと試合後に言ってきた。その手札には赤マナも白マナもなかったけど、今日はツイてるからキープしたとのことだ。私たちは2人とも8-1でこのラウンドを迎えており、彼は明らかに宝くじティルトに陥っていた。さらに悪いことに、彼は幸運にも必要な色マナを手に入れ、この勝負に勝った。
その日ずっと幸運が続いてきたなら、そのまま乗っていけばいいのだろうか?

違う。

それまでの運の良さ/悪さは、現在のあなたの意思決定に影響を与えるべきではない。どの出来事も独立している。
ポーカーでは、アウツ(※訳注:現局面での勝率)を考えずに突飛なベットをするプレイヤーは、プロプレイヤーの大好物だ。丁寧なプレイをすればそのうち彼らの手持ち全額を奪えることをプロは知っているからだ。マジックでも同じことが起きる。幸運がしばらく続くことはある。しかし、いずれプラマイゼロに近づく。

私たちはふつう、賞金を勝ち取る、あるいはプロツアーで初日を抜ける、のようなかなり良いことを夢見てスタートする。マジックキャリアを重ねると、「負け始める」という成長のきっかけにぶつかる。ふいに疑念が浮かび、私たちはこう考える、「マジックは難しい。」次のPTQでもうまくいかない。「マジックは本当に難しい。想像してたよりぜんぜん大変だ。」おそらく大した成果のない1年を終え、こう考え始める、「こんなことやる意味があるのか?」

意味がないこともある。それは、自分の中で設定した目標が不適切なためだ。もし私が世界最高のバスケットボール選手になるという目標を設定したとして、身長は5フィート8インチしかなく、運動不足で、バスケットボールに関するスキルは何も持っていない。すぐには目標に近づけない可能性が高い。
最高のプレイヤーに明日なるという夢は捨てるべきだろうか?おそらくそうだ。夢に向けて成長するのをやめるべきだろうか?それは絶対に違う。
多くの場合、実現不可能な目標からもっと現実的な目標に切り替えることで精神的にも肉体的にも健康でいられるようになる。

マジックで言えば、プロツアーに出られなかったからといってイライラしないことだ。チャレンジングだが達成可能なところに目標を調整しよう。まずはPTQで1勝するところから始め、それからトップ8に目標を移す、というように。

実現不可能な目標から受ける継続的なストレスは実際に健康に悪影響を与える。十代の若者90人を1年間調査した研究では、実現不可能な目標を捨てられなかった人は炎症反応の指標であるC反応性蛋白の増加が確認された。これは心臓病や糖尿病、早期老化のような健康リスクの上昇に繋がる。
死に近づきたくはないだろう?完全に諦めた方が間違いなく良い。

マジックの上達はゆっくりとしたプロセスだ。私はマジックを19年間プレイしてきたが、トーナメントに出るたびに毎回新たなことを学ぶように思う。成功するには継続的にプレイを修正していく必要がある。
問題は、マジックのような変化の激しい環境で勉強するのはとても大変だということだ――うまくやっていくためのスキルを身に付ける体系的なカリキュラムは存在しない。必死に頑張ったとしても、伸び悩む時期に直面することになるだろう。間違いなくそれで普通だ。トーナメントごと、年ごとの上達幅は小さいのが普通だ。

NBA選手レブロン・ジェームスの過去6年のシュート成功率を例に挙げよう。レブロンは6年続けてフィールドゴール成功率(※訳注:フリースローを除いた成功率)を向上させており、今シーズンは56.5%というとてつもない数字にまで上昇した。2003年には41.7%だった。この信じがたい14.8%の向上は一夜にしてなされたわけではない。一歩一歩の成長が一夜漬けをいずれ上回ることを理解し、努力することが必要だ。
思うように上達しないフラストレーションでティルトに陥らないようにしよう。

私たちは大きな舞台でのサクセスストーリーに心を奪われる。プロツアーやPTQを勝った人の記事に引き寄せられる。
成功者の行動に価値を置き、数多くの失敗者に目を向けないこの落とし穴は「生き残りバイアス」と呼ばれる。PTQを勝った人が1人いれば、数えきれないほどの勝てなかった人がいる。彼らの話が重要ではなく、そこから学ぶものがないなどということはない。彼らがいかにティルトと戦ったか、あるいは戦わなかったかを学ぼう。

ティルトマネジメントは期待のマネジメントだ。挑戦しよう、現実的な目標に挑戦しよう。マジックとはどんなゲームなのか、自分のスキルがどんなものなのか、現実を理解しティルトの兆候に気づけたとき、ティルトはあなたを支配できなくなる。

5回マナスクリューして、カードを全て売り払ってマジックをやめたくなるまでの間は。

奴は再びそこにいる。

Roberto

コメント

ムンナロー
2013年4月21日19:46

翻訳お疲れ様です!
僕が今まで読んできた記事の中でもベストと言っていいほど…感動しました!

nophoto
通りすがり
2013年4月21日20:06

翻訳お疲れ様です
身にしみる良記事でした

モチモチ歯応え。
2013年4月21日23:14

はじめまして。
翻訳おつかれさまです。
マジックに限らず仕事や生活にも同じことが言えると思いました。

nophoto
通りすがり
2013年4月22日9:14

翻訳お疲れ様でした。物凄く良い記事でした。

nophoto
うんこまん
2013年4月22日19:32

ん?ティボルト?

Radish
2013年4月23日1:43

> 怒れる腹音ムンナさん
ありがとうございます。
原文の雰囲気が良いのに訳が不安だったのですが、安心しました。

> 通りすがりさん
マジックに限らずいろいろ考えてしまう記事でした。

> ムキムキ悶え。さん
はじめまして。
ティルト状態で大事な選択をしちゃうケースってけっこうありますよね。
仕事とか人間関係とか。

> 通りすがりさん
コメントありがとうございます。いろいろ含まれていて、訳した後でもまだ消化しきれていない感じがする記事です。

> うんこまんさん
正と負のティボルトがあり、性格によってどちらのティボルトになりやすいかが変わります。

ゆきあ
2013年5月1日9:18

素晴らしい記事ですね。翻訳お疲れ様でした。

niko@○ぃくろす
2013年5月7日9:16

翻訳お疲れ様でしたm(_ _)m
今まさに負のティルトに嵌っていたので、光が見えました。

ko
2013年5月14日20:42

はじめまして、とてもためになる記事でした。
私は、つい気分でプレイしてしまうことが多いのですが、
気分を切り替えて最適解を確実に探すことの大切さを再認識しました。

Radish
2013年5月20日0:55

> ゆきあさん
ありがとうございます。読んでいてドキッとする記事でした。

> nikoさん
コメントありがとうございます。抜け出せたようでなによりです。

> koさん
はじめまして。ミスしたときの気分の切り替え、難しいけど大事ですよね。

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